春の山菜シーズンが一段落した頃、時期を迎える山菜があります。
コシアブラです。
毎年5月も半ばを過ぎると、冬期は閉鎖されている道路の開通情報や、山の残雪の様子などを確認しながら、コシアブラを採りに行く日を決めています。
今年は5月28日に初めて行ったのですが、まだ残雪が多く、ほとんどの木々が芽を出していない状況でしたので、改めて10日後の6月7日に行ってきました。
場所は群馬県のとある山間部です。
コシアブラとは
コシアブラはタラノキと同様、ウコギ科の木で、高さは5mから10mくらい、またはそれ以上にもなります。
「山菜の女王」とも言われ、春に出る新芽を天ぷらやおひたしで食べるのが一般的です。
若干苦味がありますが、アクが少なくて、非常に食べやすく美味しい山菜です。
「山菜の王様」と呼ばれているタラの芽はスーパーなどでも売られていますが、コシアブラはあまり見かけることはなく、たまに道の駅や直売所などで、限られた時期に見かけるくらいなので、とても貴重な山菜です。
コシアブラの生える場所は
コシアブラが自生する場所は、標高の低い里山から標高の高い山間部と幅広く、早いところでは4月から新芽が出始めます。
私が毎年採りに行くところは、雪解けを待つ場所で、5月下旬以降になります。
登山道の脇や熊笹が茂っているような藪の中で、日当たりの良いところに多く生えています。
コシアブラの見分け方
春先は色々な木が一斉に新芽を出し始めるので、葉の形がまだ出来ておらず、非常にわかりにくく区別がつかない状態です。
その中でも最も間違えやすいのがヤマウルシです。
芽吹いたばかりの蕾のような状態のコシアブラは、新芽の付け根にはかまがあり、そこからうぶ毛の生えた複数の新芽が出ているのですが、これが一見ヤマウルシと区別がつかないほどそっくりです。
ヤマウルシは樹液に有毒な物質を含んでいて、触れると「かぶれ」を引き起こします。
敏感な人は葉っぱや幹に触れただけでも痒くなることがあります。
幸い私は手で触れてもかぶれたり痒くなったりしたことはありませんが、同行した人がかぶれたりと、人によって個人差がありますので、注意が必要です。
このヤマウルシ、何とコシアブラが生えている所には、必ずと言っていほど一緒に生えています。
すぐ隣に並んで生えていたり、枝の先が交差し合っていたりすることもよくあります。
コシアブラとヤマウルシとの違い
コシアブラの幹はスベスベしていて白っぽいのに対して、ヤマウルシの幹は若干色が濃く、大きな木には縦に筋が入っています。
またコシアブラの新芽は茎が黒っぽく、その先の葉っぱはきれいな緑色です。
ヤマウルシの新芽は赤っぽいのが多いのですが、中には緑っぽいのもありますので、色だけでは判断できません。
葉っぱの形状は、コシアブラが手のひら状で5枚、ヤマウルシは1枚を先頭に左右対象に4~8枚づつ並んでいます。
葉が開いていれば明らかに違いがわかりますが、蕾のような状態の場合は、他に開いたものを見つけて、幹を辿って同じ木であるかどうかで判別できることもあります。
その他にも、よく間違えるのが、タカノツメです。
こちらは、うぶ毛がなく、ツヤツヤで硬そうな葉っぱが3枚付いています。
タラの芽も芽が出た時はよく似ていますが、トゲがあるのですぐにわかります。
タカノツメ、タラの芽はどちらも食べられるので、間違えても問題ありませんが、ヤマウルシだけは間違えないように、違いをよく覚えておくべきです。
コシアブラの採り方
芽の付け根にあるはかまごと、手でポキッと折って採ります。
手の届くところにあれば楽なのですが、木の高いところに生えている場合は、柄の長い鎌を使って、枝の上の方に引っ掛けて手の届くところまで寄せて採ります。
決して折ってしまうことのないように。
私が愛用しているこの道具は「きのこ鎌」というもので、刃の長さは9cmと普通の鎌よりも短いのですが、柄の長さが90cmと長いものです。
これを使うとコシアブラやタラの芽が高いところにある場合でも、上の方に軽く引っ掛けて枝をしならせて、芽を手元まで寄せられるので採ることが出来ます。
<1本持っておくと便利な柄の長い鎌>
<伸縮タイプで更に高い所まで届くものもあります>
この鎌を使う時の注意点として、無理にしならせると折れてしまうことがありますので、木のしなり具合を見ながら力を加減して引き寄せてきます。
「折れそうだな」と思ったら諦めます。
たまに枝が折られていたり、のこぎりで切られていたりしたものを見たことがありますが、そんなことをしたら木が枯れてしまいます。
収穫した後、しならせた木を戻す際も注意が必要です。
枝を掴んだ手を放すと弾力で勢いよく枝が立ち上がりますので、うっかりすると鎌も一緒に飛ばしてしまうことがあり非常に危険です。
手で掴んだ枝と鎌で引っ掛けた枝を少しずつ戻すようにします。
また出ている芽はすべて採ってしまうのではなく、必ず何ヶ所か残すようにします。
次の年に向けて少しでもその木が成長できるようにしておきます。
コシアブラの食べ方
主におひたしや天ぷらが一般的です。
天ぷらの作り方
よく洗って、水気を切っておきます。
はかまは付けたまま使います。
天ぷら粉を炭酸水で軽く溶いて、衣を準備します。
ベトベトにならないよう、コシアブラに衣をつけ、180℃の油で揚げます。
箸でつまんでカリッとなっていたら、裏返して反対側を揚げます。
あまり長い時間、揚げる必要もないので、表裏カリッと揚がったら出来上がりです。
色が緑色のままでも充分揚がっています。
おひたしの作り方
下処理はよく洗って、はかまが硬そうな場合は取り除きますが、柔らかい場合はそのまま残します。
沸騰したお湯に塩をひとつまみ入れ、サッと茹でます。
湯掻くと言った方がいいのかも知れません。
「サッと茹でる」というのはどのくらいかというと、沸騰した鍋にコシアブラを入れると、一時的に沸騰が止まりますが、数秒するとまた沸騰が始まります。
その状態から更に5~10秒くらい茹でるだけです。
なので、コシアブラを鍋に投入してから、茹でるのは15秒くらいです。
「そんな短くて大丈夫?」と思われるかも知れませんが、茹でれば茹でるほどコシアブラの風味がお湯の中に逃げ出してしまいますので、味が薄くなってしまいます。
実際にこのくらい茹でただけでも、鍋のお湯の色が緑っぽくなっているので、それだけコシアブラの美味しい成分が逃げ出してしまっているのですが、あまり短くしてしまうと生と変わらなくなってしまいますので、大体15秒、長くても20秒くらいにしています。
そしてザルに移して流水にさらし、10分くらい水に浸けておきます。
その後、軽く絞って水をよく切って、食べやすい大きさにカットして、皿に盛ります。
麺つゆを大さじ2(コシアブラ10束の場合)かけて出来上がりです。
コシアブラの味は
天ぷらはカリッとしていながらも、葉っぱの部分のホクホクした食感が特徴的です。
コシアブラのエグみが良い意味で旨味に感じられます。
初めて食べた時は、意外な味だと思ったことを覚えています。
おひたしはコシアブラの風味が強く感じられて、味も濃く、一番好きな食べ方です。
コシアブラ特有のちょっとした苦味と独特な香りが口の中に広がります。
何となくセリに似た味のようにも思えますが、ジワジワとくる程よい苦味がたまらなく美味しいんです。
1年を通して色々な山菜を食べますが、最も食べる機会の少ないのがこのコシアブラです。
貴重な山菜、さすが「山菜の女王」と言われるだけあって、その存在感は格別です。